『わたしを離さないで』を読んだ

Diary

2024年12月9日 08:22

この土日寝て過ごしたのだけど、日曜の昼頃元気になったので、ソファで本を読んでいた。今読んでいる本は、『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ著と、『納税、のち、ヘラクレスメス のべつ考える日々』品田遊著である。前者は結構前から読んでいた。夏頃からか?少しずつ少しずつ読み進めて、昨日は元気を取り戻したから、YouTubeでクラシックを聴きながらぐんぐん読み進めた。半分くらいまで読んでいたのが、一気に今朝までに読み終わった。
介護人のキャスの語り口が淡々としていて、抑制がきいている。語られていることは恐ろしい現実なのに、キャスが語る世界はとても静か。
キャスとトミーは愛を知っているだけ、マシなのだろうか。ヘールシャム出身者は”進んだ”施設だからマシなのだろうか。そんなことはない。生が選別されている。生まれた当初からどう「生きるか」が定められている生が存在する。目的を持って「生まれさせられた」生。その人たちを一般の人は差別し、それに生かされていることが分かっているからこそ、見ようとしない。一部の人たちを除いて。
マダムやエミリ先生のような人たちは、ヘールシャムの提供者たちに教育の機会を与え、自己表現のチャンスを与えたし、その作品を一般の人に見せ「寄付」を募ったりしていた。それは形としては人道的なのかもしれないけれど、制度に沿った改善であり、根本的な解決ではない。制度に沿って改善しようとすることは、制度を堅固にしているともとれないだろうか。それでも、提供者からの恩恵にあずかっているにも関わらず、まるで自分とは関係ないものとしている人たちよりは善意があるのか…?

現代の世界でも、恐ろしい現実があるにも関わらず、それを漂白するような見せかけだけの人道主義が蔓延っている。世界はどんどん「白く」なり、一見キレイに見える社会の下には様々な感情が湧き上がり、そのたびに感性は殺されて、人間が無視されている状況があるのではないか。それでも自分の境遇を淡々と語ることのできる優秀な介護人であるキャスに、悲しい諦めを見るのか、それでも感情を持ち、努めて善く生きようとする人間の尊厳を見るのか。私は、後者を見たい。

『クララとお日さま』も先日読んだ。共通するのは、寒い暗い世界でも、ある人からある人への個別の愛?思いやり?気遣い?ユーモア?が、小さい蝋燭の光のように、人生を照らすのかもしれないということ。イギリスにもいつか行ってみたいなぁ。今後、カズオ・イシグロの別の作品も読んでみたいと思う。

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